25年前この町に越してきた頃
2~3度だけ通った床屋が駅前にある。
今も経営を続けているが閑古鳥が鳴いている。
俺がそこに通わなくなった理由は腕が良くないと感じたから。
切れ味のすぐれない鋏を使うから髪先がカールし寝ぐせがつきやすいのだ。
その床屋はきっと近くにできた安価サービス店に客を食われたと思っている。
朝、駅前に選挙運動員が立ち
大声を張り上げて候補者の名前を連呼しパンフを渡そうとしてくる。
中年男が睨み顔で前に立ちはだかるわけで威圧感は半端なく
こちらも不快を丸出しに睨み返して通り過ぎる。
見ると多くの人が同じようにそいつを避けて通っている。
きっとその運動員は自陣が選挙で逆風に立たされているのだと感じている。
違う。
その思いは勘違いなのだ。
勤め人を辞めたくてしょうがなかった頃、
アルカサルを作り始めてから、
ある人に ”職人” と呼ばれてドキッとしたことがある。
あ!俺って職人かも・・・
もし人間それぞれに本質的な特性からくる適職があるのならば、
俺にとってのそれはまさに "職人 " と気づいた瞬間。
ず~っとそのことに気づかずに会社員をしていた俺。
きっと勤め先で上役だった人達は俺のことを
”こいつは勘違いしている” と思い続けていたに違いない。
その思いは、だから、正しい。